競技
2017/02/28【REPORT アジア冬季競技大会終了】
史上最高の金メダル27個を獲得
8日間に渡るアジア冬季競技大会(北海道札幌市)は、2月26日、無事終了した。大会前、古川年正選手団団長が目標に掲げたのは、金メダル20個だった。それがクロスカントリー小林由貴選手(岐阜日野自動車スキークラブ)が4個、レンティング陽選手(TEAM AKIRA)が3個獲得したのをはじめ、アルペンの長谷川絵美選手(サンミリオンSC)、フリースタイル・モーグルの堀島行真選手(中京大学)、ジャンプ中村直幹選手(東海大学)、佐藤幸椰選手(雪印メグミルクスキー部)らがそれぞれ2個獲得するなど、スキーだけでも予想を超える大活躍をして、日本選手団全体で目標を大きく越える27個を獲得した。
アジア冬季競技大会は1986年に第1回大会が札幌市で開催され、金メダル29個を獲得して総合優勝を果たしており、第2回大会も総合優勝を果たした。しかし、中国のハルビンで開催された第3回大会(1996年)では中国が金メダル15個を獲得(日本は韓国と並び8個)し中国が総合優勝を果たした。このころからアジア各国もスキーを強化し始めたが、中でも韓国、カザフスタン、中国などが各競技で活躍するようになってきた。1999年に韓国のカンウォンで開催された第4回大会も中国が連覇。日本は同大会初の総合3位に甘んじてしまった。
2003年の第5回大会(青森大会)で金メダル24個を獲得して再びアジア圏のトップに返り咲いたが、第6回大会(2007年・中国)は中国が総合優勝。そして2011年に開催された第7回大会(カザフスタン)は急激に力をつけているカザフスタンに金メダル32個(日本は13個で総合2位)を奪われ、ここ2大会は中国、カザフスタンに敗れて2位という結果。
第8回目となる今大会は、1990年の第2回以来3度目の開催となる札幌大会。スキーはアルペン、フリースタイル・モーグル、クロスカントリー、スノーボードにトップ選手を送り込み、ジャンプも昨秋に行われた全日本スキー選手権大会で優勝、ユニバーシアードでも金メダルを獲得して急成長する中村直幹選手、シニアでも活躍している佐藤幸椰選手、期待される岩佐勇研選手(札幌日大高校)、伊藤将充選手(土屋ホームスキー部)とワールドカップにも出場している精鋭を送り込んだ。
大会初日、スノーボード・アルペンで家根谷依里選手(大林組スキー部)が幸先よく金メダルを獲得してチームを勢いづかせ、それからは毎日複数の金メダルを獲得して覇権を取り戻した。
クロスカントリー
2人で7個の金メダル
そうした各競技の奮闘の結果、27個の金メダルを獲得した。第1回大会の29個には及ばなかったが、今とは違って各国とのレベル差は歴然だった時代だから、単純に数だけの比較はできない。
とくに今大会で目立ったのは、クロスカントリー勢の活躍だ。同競技には、ワールドカップでも上位に入賞する力を持つカザフスタンの選手も出ており、どの程度金メダルを獲得できるのか未知数だった。その中で女子の小林由貴選手は、「フリーでも自信があります」と自ら語ったように、クラシカル、フリーとも日本選手、ライバルのカザフスタンの選手を相手に次元の違う滑りを展開。なんと出場した5競技中、4レースで金メダルを獲得する活躍だった。男子もレンティング陽選手が3個を獲得。種目数が多いことを割り引いても、2人で7個の金メダルを獲得して覇権奪回へ大きく貢献した。日本選手団が獲得した金メダル総数は27個だが、そのうちスキーは17個を獲得した。
アルペン女子
復調した長谷川絵美選手
アルペンの長谷川絵美選手も、今季、ワールドカップでは2本目進出を果たせず苦しんでいたが、回転、大回転とも急成長する安藤麻選手(東洋大学)に2競技4本の対決で1本のリードも許さず、まさに完勝。ミックスゾーンでのメディアのインタビューで、「ここでは負けられないという」というトップ選手としてのプライドが言葉の端々ににじみ出ており、来季のオリンピック代表をかけた戦いは、ここからスタートするといった雰囲気が出ていた。
ジャンプ
中村直幹選手、141.5メートルの大ジャンプ
昨秋に行われた全日本スキー選手権大会での優勝をきっかけに、HBC杯ジャンプでは葛西紀明選手(土屋ホームスキー部)にも勝ち、ユニバーシア-ドでも金メダルを獲得して、今最も輝いているジャンプの中村直幹選手が観衆の度肝を抜いた。ラージヒルの1本目、1番、2番ビブの選手の110メートル台のジャンプが続いた3番目、中村選手が141.5メートルのヒルサイズ越えジャンプを披露して観衆からどよめきが起こった。この1本目で2個目の金メダルを決めてしまった。
最終日に行われた団体でも中村選手は、ただ一人132メートル、133メートルと130メートル台を2本揃えて、3種目で金メダルジャンプを見せてくれた。高校生の岩佐勇研選手がノーマルヒル、ラージヒルとも銀メダルを獲得するなど、将来が楽しみな選手の出現にも出会うことができた。
スノーボード・アルペン
家根谷依里選手、 意地の金メダル
エース竹内智香選手(広島ガススキー部)の欠場で、スノーボードのアルペン系種目はメダル獲得が厳しいという大方の見方の中で、ベテランの家根谷依里選手が燃えた。19日、他の競技に先駆けてトップで行われたスノーボードの女子大回転。今大会ではパラレルではなく、大回転、回転とも単走で行われた。オリンピック2回、世界選手権大会8回出場しているベテランは、その最初の大回転で滑りが悪い雪質の中、ただ一人ボードをフォールラインに向けて加速させる圧倒的な滑りを展開。1~2本ともラップを奪って2位、3位を占めた中国勢を撃破した。
金メダルを狙った回転は、1本目に失敗してラップを奪われた中国の選手に2秒13の大差を作られてしまった。しかし、経験豊富な家根谷選手はあきらめず2本目はリスクを恐れず攻めて、ただ一人38秒台の速いラップタイムをマークして中国の選手にプレッシャーをかける。
中国の選手も初の金メダル獲得に意欲を見せ、懸命に攻める。しかし、明らかに家根谷選手の方が速い。タイムが掲示されるまでどちらが勝ったかわからないほど、2本目に関しては家根谷選手の方が圧勝していた。だが、100分の7秒差まで迫ったが、届かなかった。銀メダルに終わった回転だったが、2本目にベストランができたことには満足していた。
ちょっといい話
応援旗は地元小学生の手作り
スキーで使われた各会場では、ボランティアが来場者に応援する小旗を配っていた。よく見ると1枚1枚が手作りで2つと同じものがない。クロスカントリー会場では、地元清田区内の小学校名と氏名が入っており、クレヨンで思い思いの絵が描いてある。写真はアルペン、スノーボード・アルペン会場となったサッポロテイネで配られたもので、琴似の小学生が描いた小旗。
とくに外国からのお客さんには大うけで、2本、3本ともらう人もいたほど。どこの会場でも、もらった小旗を帰りに捨てていく人もいるが、この小旗はほとんどの人がザックに差し込んで持って帰っていた。この子供たちの“おもてなし”は、国境を越えて多くの人たちを感動させていた。
東日本大震災復興支援
JOC「がんばれ!にっぽん!」プロジェクト
あの東日本大震災の日からJOCが行う「復興支援事業」として、被災地の子供たちを大会などに招待しているが、オリンピックを1年後に控えている今年は、「アジア冬季競技大会」が招待。1992年アルベールビルの金メダリスト、ノルディック・コンバインドの三ヶ田礼一さんを団長に、岩手県、宮城県、福島県、そして熊本県から招待された総勢21名が参加した。サッポロテイネのスノーボード会場では、特設スタンドに陣取り、日の丸を掲げて「家根谷依里」と書かれたカードを掲げる子供もいた。
家根谷選手が子供たちの目の前に現れると歓声が上がり、歓迎の挨拶をすると子供たちから大きな拍手を受けていた。大会観戦だけではなく、競技の合間には「宝探しゲーム」などが行われ、子供たちは雪まみれになってはしゃいでいた。
参加した子供たちは中学生と高校生で、いずれも冬季スポーツをしている。アルペン選手だったり、アイスホッケー、フィギュアスケート、クロスカントリーとまちまちで、世界的な選手の競技に歓声を上げていた。被災した子供たちだが、スポーツの持つ素晴らしさに改めて感動したことと思う。がんばれ、がんばれ、と選手たちも元気なプレーを見せることで後押しをしている。
◆種目別獲得メダル数
競技 |
競技数 |
金メダル |
銀メダル |
銅メダル |
メダル合計 |
ジャンプ |
3競技 |
3個 |
2個 |
|
5個 |
クロスカントリー |
男子5競技 |
3個 |
1個 |
3個 |
7個 |
女子5競技 |
4個 |
|
|
4個 |
|
|
|
|
|
11個 |
|
アルペン |
男子2競技 |
1個 |
|
2個 |
3個 |
女子2競技 |
2個 |
2個 |
|
4個 |
|
|
|
|
|
7個 |
|
フリースタイル |
男子2競技 |
2個 |
1個 |
|
3個 |
女子2競技 |
1個 |
1個 |
2個 |
4個 |
|
|
|
|
|
7個 |
|
スノーボード |
男子3競技 |
|
1個 |
2個 |
3個 |
女子3競技 |
1個 |
1個 |
1個 |
3個 |
|
|
|
|
|
6個 |
◆大会別成績
開催年度/開催地 |
総合 |
日本の 金メダル |
||
1位 |
2位 |
3位 |
||
1986年 第1回札幌大会 |
日本(58) |
中国(21) |
韓国(18) |
29個(1位) |
1990年 第2回札幌大会 |
日本(47) |
中国(26) |
韓国(21) |
18個(1位) |
1996年 第3回ハルピン大会 |
中国(37) |
日本(32) |
カザフスタン(31) |
8個(3位) |
1999年 第4回カンウォン大会 |
中国’(36) |
韓国(35) |
日本(29) |
6個(4位) |
2003年 第5回青森大会 |
日本(67) |
中国(33) |
韓国(28) |
24個(1位) |
2007年 第6回長春大会 |
中国(61) |
日本(36) |
韓国(33) |
13個(2位) |
2011年 第7回アスタナ・アルマトイ大会 |
カザフスタン(70) |
日本(54) |
韓国(38) |
13個(2位) |
2017年 第8回札幌大会 |
日本(74) |
韓国(50) |
中国(35) |
27個(1位) |