競技

2017/11/05

【REPORT 第1回フリースタイル競技モーグル種目タレント発掘育成事業遠征】
夏季トレーニングの雪上技術への進化

 9月24日から10月25日まで、スイス・ツェルマットにおいて、第1回フリースタイル競技モーグル種目タレント発掘育成事業遠征が開催され、タレント発掘事業対象の強化指定選手、男女5名が参加しました。雪上でのスキートレーニングを中心としたこの遠征では、まずはこれまで3回実施してきた合宿を踏まえ、これまでのトレーニングで得た技術を確認し、それらを雪上の技術へと転換させてモーグルスキー技術を洗練させること、次に雪上でのトレーニングと体力トレーニングの両立、そして最後にコンディショニングでは海外移動時の時差調節と高地における体調管理、この3つを課題としました。

 

All2

標高3600mの山頂は、山々が眼下に広がる

 

 

 初めに、モーグル技術の成果確認とその洗練は、雪上でのスキートレーニングを中心に実施。トレーニングのサイクルは雪上トレーニングを3日行い、1日オフという4日サイクルを1クールとして繰り返しで行いました。まずは整地でのスキーの基本操作トレーニングからスタート。エッジングとずらしの技術を確認するために、ターン弧の大小の差をつけてのトレーニングや横滑りとピボット動作を組み合わせたトレーニングなど、ドリルが常に新しい刺激となるよう、コーチがプランに変化を持たせながら実施しました。

 

 

SNOW1

西沢岳人選手(チームリステル)のエア

 

 2クール目にはコブ斜面でのトレーニングへと徐々に移行し、整地からコブ斜面でのトレーニング時間を増やしていきました。そして最終的には、試合での滑走状態と同じ「top to bottom」 に移行。途中にエアを入れながら、コースのスタートからゴールまで止まらずに滑り切るところまで、演技を仕上げることができました。また、トレーニングの途中、天候不順により3日続けて山がクローズとなりましたが、そのような日も選手は陸上トレーニングや軽登山、そして各自ケアを行い、常にコンディションが整うようトレーナーの指導のもと準備を進めることができました。

 

 

SNOW2

基礎スキー技術を確認

SNOW3

映像で動作を確認し、自分の感覚と擦り合せる

 

 

 ふたつ目の課題である雪上と体力トレーニングとの両立で特に気をつけたのは、トレーニング強度と体調との関係です。ツェルマットは滞在するホテルの標高が1600m、スキートレーニングを実施する場所は3600mと、いずれも高地の部類に入るところで滞在、トレーニングを行います。このように標高が高いところでは、高山病に罹る可能性や通常以上に疲労が高くなることが考えられ、その対策をしながらのトレーニングとなります。当然ですが日々のトレーニングを質の高いものにするためには、疲労をその日のうちに除去し、翌日にはフレッシュな状態でどれだけ高品質で高負荷のトレーニングを行えるかが鍵です。そこでトレーナーの協力のもと、トレーニングの途中に血中の酸素飽和度や個々の自覚的疲労度、自覚症状などを確認しながらトレーニング強度を調節し実施したことは、選手の健康とトレーニング管理の観点から非常に有効だったと考えます。

 

 

Tre1

動作を確認しながらの陸上トレーニング

Tre2

トレーナーのサポートで、正しいトレーニングフォームを習得する

 

 

 体力トレーニングはジムの環境に恵まれていなかったことから、不安定な状況でのバランス獲得や関節可動域の獲得、正しい動作の実施を目的に、屋外広場にてウォーターバッグトレーニング、自重でのトレーニングを中心に実施しました。これらのトレーニングにより身体の疲れを少なくしながら、神経中枢へより大きな負荷をかけることができました。

 

 

Tre3

体幹に効くウォーターバッグを用いてのトレーニング

 

 

 関節可動域の獲得では、特に股関節の可動域の狭い選手が多いことから、動的に身体を大きく動かす陸上トレーニングを実施しました。当然のことながら、トレーニングはコツコツとやり続けることでしか成果は得られません。このトレーニングを遠征・合宿以外の時期でも行い続けられるよう、2名のトレーナーが日々やり方やその動きが正しいかどうか指導・確認しながら実施できたことは、非常に効果的でした。ただ、コンディショニングの一環で実施した球技で負傷者が出たことは、痛恨の極みでした。選手の復帰に向けてのサポート行いつつ、事故を検証し、再発のための策を講じます。

 

 

Tre4

何通りもリズムを変化させて行ったラダートレーニング

 

  最後にコンディショニングですが、これは第3次合宿においてトレーナーからレクチャーされたことと、配布された冊子(JOCコンディショニングガイドfor Rio 2016)を参考に、どれだけ各選手が実践できるかにかかっていました。時差対策としての機内の過ごし方と睡眠、食事の摂取、現地に着いてからの過ごし方など、それぞれの選手が自ら計画立案し、実践しました。その結果、昼間の軽い眠気やだるさはあったものの、眠り込んでしまうような大きな問題はなく過ごすことができました。そして高地対策としては、先にも記したように血中酸素飽和度の測定、自覚的症状の確認、水分摂取と予防的な頭痛薬の摂取など、複合的にサポートすることで、こちらも大きな問題なく過ごすことができました。今回の遠征は時差がまだ少ない西向きでしたが、次回のカナダ遠征は時差がさらの大きい東向きとなることから、再度各自対策の立案と実践を促しました。

 

 

Care1

セルフケアできない部分を、トレーナーの方にケアしていただく

Care2

酸素飽和度を確認しながら、雪上トレーニングを実施した

 

 

 このように今回の遠征では、これまでのトレーニング成果をモーグル技術に反映させ、確認することができ、同時にアスリートとしての心・技・体・智を高めることができました。 

 フリースタイル競技モーグル種目タレント発掘育成事業は、スポーツ振興くじ(toto)の助成を受けて実施しています。今シーズンは国内合宿5回、海外遠征が3回の実施を予定。本事業は「Learn to compete」という 「国際競技会で競うことを学ぶ年代」に必要な心・技・体・智を獲得すること、そしてアスリートとして、ひとりの人として豊かな人間性を獲得することを目指し、今後も選手に様々な刺激を与えていきます。

 

 

All3

町の中心にある広場にて。日々の陸上トレーニングで活用した

 

 

 

報告:フリースタイル部ヘッドコーチ 斗澤 由香子